2010年08月19日

わかるという価値


電子機器万能の世の中ですが、その中にあっても
人気が高い機械式の自動巻き時計です。
100819_watch.jpg


自動巻きといっても、使わないと止まってしまうし
明らかに電子式のクォーツの時計の方が便利なはずです。

なんと世の中には、自動巻き時計を電気を使って
巻く機械もあるようで驚きです。
それなら、最初から時計を電気で動かせよと。

人にこうまでさせる、
自動巻き時計の魅力とは何なのでしょうか?


自動巻きは高級品中心ですから、
デザインやイメージの問題なのかもしれません。

しかし、もっと本質的な魅力があるような気がします。


そんなことを考えていたとき、思いついたのが、
動作原理が「わかる」ことではないのか、
ということでした。

今となっては非常に安価でありふれたものですが、
クォーツの時計の動作原理がわかる人が
世の中にどれだけいるでしょうか。

一方、ぜんまいを巻いたエネルギーで動く、ということは、
多くの人にとって「わかる」ものです。

これが機械式時計の魅力の原点なのではないでしょうか。
動作原理がわかりやすいことは魅力なのです。


この世の中で、ありふれているけど「わからない」もの。

この筆頭は、残念ながら私の専門とする半導体
なのではないかと思います。

何らかの方法で、半導体の動作が「わかる」
ような製品を世の中に出すことができれば、
スペックと価格だけでない価値も
提供できるのではないだろうか?

少なくとも、人間に優しい製品といった時、
その動作原理がわかりやすいということは、
1つのポイントになるはすなのです。


昨今、製品は性能や価格はもちろん、
環境にやさしいことが重要なポイントになっています。

それが当たり前になってしまった後には、
人に優しい製品、つまり動作原理がわかりやすく、
人間が違和感なく受け入れられる製品、
そんなものが求められるようになるのかもしれません。

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2010年05月20日

太陽電池のウソ


太陽電池、ほとんどの人はこの言葉を
聞いたことがあるだろうと思います。

でも、この太陽電池、という言葉には
大変なウソが含まれているのです。


そもそも太陽電池って何でしょうか。
まず、それから説明します。

太陽電池の多くは半導体からできています。

そして、図のように半導体の中には
電気を通すと光るものがあります。
太陽電池1_100521.jpg


今話題になっているLED電球というものは
まさにこれなのですね。


そして、問題の太陽電池ですが、
電気を流すと光る、、、、
ということは、逆に光を当てると
電気を流すのではないだろうか?
という、発想から生まれました。

実際、図のように光を当てると
電気を流す半導体が存在します。
これが、太陽電池です。
太陽電池2_100521.jpg



ここで元の話に戻りましょう。

太陽電池という言葉のウソは
「電池」という部分にあります。

太陽電池は、光を当てると電気を流す、
光がなくなると電気を流さない。

つまり、電気を貯めることはできません。
電池といいながら、電池ではない。
電気の「池」ではないのです。

これが、太陽電池のウソです。

太陽光発電なら問題はないのですが。


ちなみに、なぜこんな名前がついたか。

恐らくは、太陽電池は最初は電卓で使われました。

今までの電卓は電池が必要だったけど、
電池がなくても動く電卓。

そこで、太陽電池という名前が
つけられたのではないかと思っています。


色々な背景はあるのでしょうが、
太陽電池という言葉に騙されてはいけません。

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2010年05月14日

どうやって波に情報をのせるのか

テレビ、ラジオ、携帯電話、無線LAN
これらに共通することは、
電波で情報を遠くに飛ばす、ということです。

でも、波で情報を飛ばす、といっても
ピンとこない人も多いでしょう。

今日は波で情報を伝えるとはどういうことか
というお話をしたいと思います。

ware_100515_1.JPG


図を見て下さい。

いま、二人の人がひもを持っています。
そして、このひもを動かして波を作って、
情報を伝えることを考えます。

今は左の人が右の人に、信号の色が
赤なのか青なのか伝える、ということを考えましょう。


ware_100515_2.JPG


まず、思いつくのが「大きさ」で伝える方法です。
つまり、「青」だったら小さく動かす、
「赤」だったら大きく動かす、と決めておけば、
左の人から右の人に、信号の色を伝えることができます。

もう一つ、こんな方法もあります。
それは、動かすスピードで伝える方法です。
つまり、「青」だったら遅く動かす、
「赤」だったら早く動かす、と決めておけば
左の人から右の人に、信号の色を伝えることができます。


ware_100515_3.JPG


ちなみに、この方法を組み合わせれば、図のように
2つの信号の情報を同時に伝えることもできます。


単純な話ですが、情報を波で送るとはこんなことです。

実際、AMラジオは電波の大きさで、
FMラジオは電波を動かす早さ(長さ)、
アナログテレビはこの2つを組み合わせて
音声や画像の情報を伝えているのです。

なぜ、電波で遠くに情報が伝えられるのか
イメージがわきましたか?

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2010年05月06日

原子力発電の未来

最近この本を読了したのですが、
ちょうどタイムリーに高速増殖炉の「もんじゅ」が
運転再開とのニュースが入ってきました。
原発とプルトニウム (PHPサイエンス・ワールド新書)

原子力発電というものは、問題点も多いので
太陽光発電や風力発電がいきわたるまでの
過渡的な方式だと思われています。

私も基本的にそうだとは思うのですが、
意外と息の長い技術かもしれませんね。

少なくとも、私が生きている間に
下火になることはなさそうな気がします。

なんせ、現在原発の開発計画が世界中で
たくさんあって、寿命も長いですから。


さて、今日は原子力発電の原理を簡単に説明します。

原子力発電というものは、原子が分裂するときに
放出するエネルギーを利用するものです。

「物質はすべて原子からできている」
という話は皆さんご存知と思います。

当初、原子はそれ以上分解できないし、
変化したりすることはないもの、とされていました。

それが、この100年ほどで物理学が発展を遂げ、
実は原子が融合したり、分裂したりする
現象が存在することがわかりました。

分裂や融合する時にエネルギーを放出するのですが
そのエネルギーというのは桁外れに大きいもので、
アインシュタインの E=mCという式で表されます。

そして、ウランの分裂を利用したものが原子力発電で、
兵器に利用したものが原子爆弾になるわけです。

ただし、分裂するときにエネルギーだけ出せば
良いのですが、放射能というやっかいなものも
同時に放出してしまいます。
ここが、原子力利用の難しいところですね。


また、原子の分裂でなく融合を
利用することもできるはずです。

この反応で代表的なものは、
水素同士が融合してヘリウムになる反応で、
実は太陽のエネルギーはここから出ています。

そして、この反応を利用した兵器が水素爆弾です。

一方、残念ながら原子融合の平和利用(発電)は
現在開発段階でまだ実用化には遠い状態です。

ですが、原子融合を利用する場合、
放射能等の有害な物質の発生が少ないため
現在の原子力発電に比べ、
はるかにクリーンなエネルギーとなります。

自然エネルギーほどに知名度はありませんが、
技術的課題さえ解決することができれば、
未来のエネルギー源として非常に有力です。

posted by エンジニアライター at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | テクノロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月27日

予定不調和


少し憂鬱にさせられる本でした。
予定不調和

サイエンスコミュニケーターの方の本なので、
科学技術の発展でこんな素晴らしい世の中になる!
という論調なのかと思っていました。

ですが、この本は科学技術の暗部にも光を当てます。
例えば、胎児の遺伝子治療に関してこんなやりとりが。
質問者
「それでは、数年前の遺伝子導入と、
 患者の精神疾患の発祥とは
 全く因果関係はないのでしょうか?」
医療関係者
「わかりません」
質問者
「わかるかわからないか、ではなく
 関係あるかないかを聞いています」
医療関係者
「因果関係があるかないかが、
 全くわからないのです。」
質問者
「それではどのような調査をすれば、
 どのようなデータがあれば、
 わかるんですか?」


妙に生々しいやりとりです。
フィクションなのですが、
近未来に確実に起こる出来事と思わせられます。

エンジニアとして技術開発の側にいる私としては、
複雑な思いを感じてしまいます。

科学技術は必ずしも人を幸せにしないのでしょうか?


でも、この本の本当の意図はそんなことに
あるのではありません。

それは、こんな言葉に表れています。
先端の科学技術は、人々の思いとはまるで無関係に
すすんでいくように思われているふしがある。
だが、人々が受け入れられないならば、
人々は使わず、そしてその技術はすたれていく。


そうです、決して無力ではないのです。
新しい技術を活かすか殺すかは、
技術の開発者ではなく、
使用者に委ねられているのです。

それだからこそ、あえて負の面にも目を向け、
一般の人たちの関心を集め、
科学技術との関わりを深く考えさせる。

技術そのものよりも、
その影響にフォーカスした本といえます。


恐らく、この本の中の話のいくつかは
近未来に現実のものとなるでしょう。

自分が科学技術の何に期待して、何を恐れるか、
それを浮き彫りにしてくれる1冊だと思います。

専門知識は必要ありません。
SF小説を読む感覚で、ぜひ手にとってみて下さい。

posted by エンジニアライター at 22:25| Comment(0) | TrackBack(0) | テクノロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする