2024年03月13日

役に立ち、美しい はじめての虚数

私の新著『役に立ち、美しい はじめての虚数』が出版されました。
この本は虚数とはどのようなものか? どのように世の中に役に立っているのか? ということを波、次元、美という3つの切り口で書いた一冊です。

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以下に「まえがき」を示します。

★まえがき★
虚数は、役に立つし、確かに存在するし、人をひきつける大いなる魅力を持っています。
まず虚数は役に立ちます。 虚数抜きでは、スマホも動かないし、自動車を効率よく動かすこともできないでしょう。そんな力が虚数に秘められています。

そして、虚数は確かに存在しています。 というか存在させられると言った方が正しいかもしれません。「虚」とはウソという意味も含みますが、虚数が存在しないわけではありません。

最後に、虚数は魅力的です。 虚数は「虚」という文字がついているし、何かミステリアスな雰囲気も持っています。数学というと無味乾燥なイメージを持たれる方も多いでしょうが、虚数は人をひきつける魅力があります。実際、虚数の世界は本当に奥が深く、数学の美しさがはっきり表れている分野です。

そして、一つ付け加えることが……。虚数を学ぶことにより、数学全体に対する理解を深めることができます。 虚数をしっかり学べば、例えばベクトル、行列、微積分など、数学の他の分野へも展開できる考え方を身に着けられるのです。


もともと虚数は純粋に数学者の好奇心から生まれました。最初はそんなものには意味はないと思われていましたが、後の研究により深遠な世界が広がっていることがわかり、さらにそれが役に立つことが示されたのです。

この本は虚数を学ぶための本です。 ですから、この本を読むと、虚数というミステリアスなものの正体を明かすことにより好奇心を満たせます。
そして、数学全体への理解を深めることができます。まさに一挙両得というわけです。

しかも、この本は一部の数学が得意な人にだけ向けた本ではありません。

申し遅れました。私は蔵本貴文と申します。
本書は数学の本ですが、私は数学の専門家ではありません。大学の専門課程の数学は教科書を見て敵前逃亡、履修さえしませんでした。ですので、大学教養課程までの知識しかありません。
しかし、私はこの虚数の本を書くに値すると確信しています。なぜなら、私は虚数を「使って」いるからです。

私は半導体のエンジニアで、専門領域は素子の特性を数式で表す「モデリング」という仕事になります。 微積分や行列、ベクトル、そしてこの本のテーマである虚数と、高等数学を駆使する仕事なのです。
ですから、虚数とは日常的に接する立場にいます。
いったん職場である実験室にある専門のソフトを組み込んだコンピュータの前に立てば、出てくる数字の半分ほどは虚数(複素数)です。これらを使いこなせないと話になりません。
 研究者ではなく、まさに「使う人」というわけです。


経済学で言えば、大学で文献や数式を見ながら論文を書いている教授と、会社で実際の数字を見ながら利益を増やそうと汗をかいている経営者のような違いがあるでしょう。もちろん私は後者です。

数学が難しいのはその抽象性と厳密性にあると考えています。私の数学は身体で覚えたものですから、数学の先生から見れば厳密でないこともあるかもしれません。
しかし、数学の研究者を目指そう、というような人でもない限り、私のような少しラフな視点の方が、役に立てることも多いのかなと考えています。

この本の執筆の依頼を頂いて、虚数の本を読み漁りました。多くは数学の研究者による本で、自然数、整数、有理数、実数の拡張から複素数、すなわち虚数へのアプローチをしていました。また、方程式の解としての虚数にも重点が置かれています。

一方、科学や技術の世界への応用については「虚数は電気や物理などの分野で必要不可欠となっている」などと付け加えるように書かれている他は、特に詳細な記述は無いものがほとんどです。

そこで私は考えました。
「世の中には虚数を使う、という観点の本は少ないのではないかと」
一方、電子工学や制御工学、理論物理の教科書を読むと、虚数は当たり前のように登場します。しかし、その中では虚数はただの道具であり、焦点がそこに合うことはありません。

だから虚数を主役にしながら、「使う」「役に立つ」ということにもフォーカスすれば、世の中に役に立つ、そして面白い本ができるのではないかと考えたのです。

そこで、虚数がなぜ役に立つのか? どのような意味があるのか? について、ひたすら考えてみました。すると、その答えらしきものが見えてきたのです。

なぜ虚数が役に立つのか? その理由は「虚数で波をうまく表現することができる」、「虚数で次元を拡張することができる」そして、「虚数は美しい数である」の3つに集約されました。最後の「美しい数」は数学の学問としての理由ではありますが、その意味でも虚数は立派に役に立ってくれています。

そこで、本書ではこの3つ、波、次元、美という観点から、虚数の構造と意味を語っていきたいと思います。

読者の方も色々なレベルの方がいらっしゃると思うので、前の章ほどなるべく数学の知識が無くても読めるようにして、数式を含んだ難度が高い項目は後の章に回しました。ですから数式が苦手であっても、読めるところまで読めば、それなりに得ることがあると確信しています。

さあ、深く便利で楽しい虚数の世界へようこそ。
まずは波、次元、美というキーワードを中心に、虚数の姿を描いていくことから始めたいと思います。1章へ進んで下さい。
posted by エンジニアライター at 21:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする