2023年08月08日

高校数学からのギャップを埋める 大学数学入門



 私の新著『高校数学からのギャップを埋める 大学数学入門』が出版されました。
 この本は主に低学年の理工系大学生向けに、数学の学び方を説いたものです。

 大学に入ると数学がかなり難しくなります。その理由は本の中で詳しく説明していますが、抽象的になる、内容が証明に偏っている、教科書が不親切などがあります。その中で本書では、親切に、意味や目的にフォーカスして、なるべく具体的に初歩の大学数学を説明しました。

 理工系の大学生はもちろん、これから高度な数学が必要となった社会人の方にもお勧めです。


以下に「まえがき」を示します。
★まえがき★
 大学に入って、あれほど好きだった数学が嫌いになってしまった。
 そんな想いを抱えている学生は多いのでないでしょうか。私の学生時代は20 年以上前になりますが、私もそんな一人でした。
 ただ世の中を見てみると、そんな状況は昔と全然変わっていないようです。「理系の理系離れ」という、妙な言葉が出回っていたりするわけですから。

 私も高校時代には、数学を専門的に学ぶことを視野に入れていました。
でも1年の線形代数の教科書を見て、これは受け入れられないと断念しました。こんな本を書いておきながら、大学高学年以降で学ぶ本格的な数学は、私は全く履修していません。
 でも、それから大学での物性物理の研究を行って、そして半導体企業に就職し「モデリング」と呼ばれる仕事を専門として行う中で、大学数学の意味が見えてきました。
モデリングとは、高等数学を駆使して、半導体素子の特性を数式で表現する仕事です。この仕事を行う上では、微積分や複素数、三角関数、大学の分野では行列(線形代数)やベクトル解析、多変数関数の微積分、統計解析など高度な数学を駆使します。

 ただし、実際に計算するのはコンピュータなので、必要なスキルはいわゆる数学のイメージとは異なります。計算の速さや正確さはほとんど重要ではありません。それより本質的なことを理解して、それをコンピュータに命令(プログラミング)することができないと、仕事を進めることはできないのです。

 正直、大学で学んだ数学には、今となればあまり学ぶ必要が無いと思うところもありました。メリハリをつけて学べば、もっと効率的に学べたと思うのですが、当時は重要な部分とそうでない部分の区別がつかなかったので、うまく進められなかったのです。
 数学の世界で迷っている時には、自分が何をしているのか理解できませんでした。でも、今のような位置にいると、その意味や目的がはっきり見えます。この本ではそんな、大学の低学年で学ぶ数学の意味や目的をお伝えしたいと考えています。

 特に数学以外の理学系や工学系など、数学自体を研究するのではなく、道具として使う方にはお力になれる一冊だと確信しています。
 本書を読むと、意味が取りにくい大学数学の道筋が見えてきます。何よりも、わからないところがあっても、必要以上に不安になることがなくなります。そんな心の変化が起こることをお約束します。

 本書は3章構成になっています。
 第1章はなぜ大学の数学は難しいのか? そんな難しい数学にどのように取り組んでいけば良いのか? そして、研究や仕事を始めた時に「役立つ数学」とはどのようなものなのか? について説明します。
 大学の数学は本当に広大な世界です。第1章ではその世界に臨む上での心構えをお伝えします。具体的な例を多く入れながら説明していますので、スムーズに理解して頂けると考えています

 第2章は大学数学を学ぶステップとして、高校数学について見直します。
 高校数学は思ったより高度なもので、これを完全に理解していれば大学数学の理解もかなり楽になります。
 ただ高校での数学は、どうしても試験で点数を取ることが目的になっていると思います。ですから、さらに進んだ数学の基礎として重要な部分がおざなりになることが多いのです。後の数学に繋げるという視点で高校数学をもう一回学んでみましょう。

 最後の第3章はいよいよ大学数学の項目に移ります。ここでは大学で習う数学の目的や大局について示しています。
 大学の数学の教科書は証明が中心の「数学のための数学」になっていて、「そもそもこれって何が目的だったの?」が見えなくなることが多いです。ですので、目的や意味がわかるように配慮しています。
 できれば第1章から通して読んでもらいたいですが、テストの前など時間が無い方は第3章の、いま困っているところから読んで頂いても良いかもしれません。

 この本は流れをつかむことに焦点を置いているので、証明や本筋に遠いところの説明を省いている部分もあります。細かいところが確認したくなった時には、あなたが大学で使っている教科書で確認してみて下さい。
 細かく厳密に説明することも大事ですが、私としては重要でない部分を省き、大事なことがより引き立つようにすることも価値だと考えています。この本を読んだ後だと、大学の教科書の理解がはるかに楽になることでしょう。

 それでは、第1章に進んで下さい。大学数学がなぜ難しく感じるのか、そしてどういう風に学べば良いのか、ということからお伝えしたいと思います。

令和5年7月 蔵本貴文
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2023年04月08日

運は技術である

 パレオさんこと、鈴木祐さんの『運の方程式』を読みました。
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 この本で書かれている通り、確かに世の中の成功は結局は「運」です。
 でも、「運」なんて世の中にはいくらでも転がっていて、大事なのはそれをつかめるかどうかというと、結局はつかむ人間の努力やスタンスによるな、と思うのです。


※詳細な書評は下のリンクより
https://bookshelf.rikei-style.net/archives/51743411.html
posted by エンジニアライター at 12:37| Comment(1) | TrackBack(0) | 半導体 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年04月03日

記憶が改ざんされている

 この本『意味がわかる微分・積分』を読んで、びっくり。私の微積分のとらえ方と全く同じでした。
「もしかして、僕の本に影響を受けた??」とか思ったら、初版は私の最初の本より先。つまり、私がこの本に影響を受けていたのでした。
 本を書く前には購入していませんので、恐らく図書館で読んだか、立ち読みしたのでしょう。ごめんなさい、後で購入しましたので私のバイブルにします。

 ある教えや思想を自分の中で完全に咀嚼すると、それがどこから来たのかを忘れて、自分のオリジナルのように感じてしまうのですね。
 実はこれと同じ現象、かの名著『7つの習慣』でも体験しました。「自分の考えてたことって、つまりこの本に書いてあることだったのか」と。

 ちなみにこの本『意味がわかる微分・積分』は、版元がベレ出版で担当編集者も私の本と同じ方です。そんなご縁に運命的なことを感じます。
 この本は写真にあるように、7年かけて5刷となっています。私の本もこのように読み続けられる本になって欲しい、と気を引き締めています。

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2023年01月23日

意味と構造がわかる はじめての微分積分


 私の新著『意味と構造がわかる はじめての微分積分』が出版されました。
 この本は微積分がどのように世の中で使われているか? から始まり、微積分の意味を順序だてて説明しました。

 数学の専門家の本は、論理や厳密性を重視するので、どうしても難しくなってしまいがちです。本書では多少厳密性を犠牲にしても、直感的で普通の人間の思考過程に合う説明ができたと自負しています。
 特に、微積分が何の役に立っているのか、知りたい学生の方、数学に興味のある社会人の方にお勧めです。


以下に「まえがき」を示します。
★まえがき★
 高校で勉強する数学の中で、多くの人にとって、最も役立つのは微分積分でしょう(以降、微積分)。
 なぜなら、微積分を学ぶことによって、数字から得られる情報が倍以上になるからです。

 得意、不得意にかかわらず、現代人は数字から離れることはできません。お金、利益率、客数、客単価、継続率、平均時間、回転率、稼働率、不良率、こんな様々な数字に囲まれて過ごしているのではないでしょうか?

 微積分を学ぶとこんな数字から、さらに多くの情報を引き出すことができます。
 優秀な人は一を聞いて十を知ると言いますが、微積分を学ぶと元の数字から得られる情報が倍以上になるのですから、優秀に見えるのは当たり前のことだと思います。

 とはいえ、高校の微積分がわからなくてもがっかりする必要はありません。微積分の本質は、高校で習うような複雑怪奇なものではないのです。
 詳しくは本書の1章を読んでほしいのですが、あなたが今まで普通に数字を分析していた方法の中に、微積分の考え方が多く含まれています。
 そうです。差分や累積、それを数学的に体系化したものが微積分なのです。

 身の回りの数字にも微積分は溢れていますが、その力が最も発揮されているのは理工学の分野と言えます。車が走るのも、飛行機が飛ぶのも、ビルが建つのも、スマートフォンで通話ができるのも、ロボットが私たちの手助けをしてくれるのも、微積分の力なしにはありえません。
 
 その中でも現代社会で特に重要なものがコンピュータです。世の中で唯一、生物以外に「考える」ことのできるコンピュータは、社会の至るところで活躍しています。パソコンはもちろん、スマホの中にも、車の中にも、冷蔵庫や掃除機や洗濯機のような家電の中でも働いてくれています。
 つまり、コンピュータは身の回りで私達の生活を助けてくれる仲間のようなものです。その身近な仲間の思考回路を知ることは大事ですよね。職場で同僚や上司、部下の気持ちを理解することが大事なのと同じことです。
 そして、そのコンピュータの思考回路こそが、数学です。数学、そしてその核となる微積分を学ぶことはコンピュータの「気持ち」を学ぶことに役立つのです。


 ご挨拶がおくれました。私は半導体エンジニアとして働いている蔵本貴文と申します。普通、このような数学の本を書くのは、数学の先生や教育者だと思うかもしれません。でも、私はそんな人間ではありません。
 ただ、私は数学無しでは成り立たない仕事をしています。専門分野は「モデリング」という仕事で、三角関数、指数・対数、行列、複素数、そして微積分を駆使して、半導体素子の特性を数式で表す仕事なのです。

 ですから、私は学問としての数学ではなく、「数学を実務に活かす」立場の数学を論じることができます。世の中に数学の専門家が書いた数学のための数学の本はたくさんありますが、一般の人に求められているのは、意外に私が使っているような数学なのではないかと考えています。 


 最近、娘が高校生になって、数学や物理を教えることが増えてきました。その中で思うことは、数学が難解である原因は抽象的なところにあることです。
「この問題がわからない」と言われたときに、一番理解してもらえる方法は、文字に数字を入れたり、グラフを描いたり、図を描いたりして具体化することであると気づいたのです。

 例えば、日本の高校に通う高校生で、いくら数学が苦手だったとしても「1+2」の計算ができない学生はいないと思います。
 しかし、「x+2x」であればわからない学生もいるでしょう。そして「f(x)+2f(x)」になると、そこそこ数学ができるはずの学生でも悩む場合
があります。これらの計算の本質は全く変わらないのにもかかわらず、です。


 これは文字や記号を使った抽象化が理解の大きな妨げになっていることに他なりません。もちろん、数学は抽象化によって発展してきました。だから最終的には抽象的なものが理解できた方がよいです。
 しかしながら、特に初学者にとってはその抽象化によって、学習を門前払いされてしまうことが多いのです。

 ですから、本書では具体的に記載することに徹底的にこだわりました。xとか、f (x)とか、dx/dy とか、∫とか、抽象化した文字や記号を使わざるを得ない時には、詳しく具体的な説明を加えました。

 また、数式は抽象的すぎて嫌われやすいので、本書の2章までは全く数式は使っていません。特に数式嫌いな人にとって、微積分を受け入れやすい説明だと自負しています。
 さあ、微積分の世界にようこそ。微積分の考え方を身につけることにより、数字を扱う能力が向上し、あなたの好奇心を満たし、そしてコンピュータの気持ちの一端が理解できるようになるでしょう。
 それでは、さっそく微積分の本質に迫っていきましょう、と言いたいところですが、もう少しだけまえがきにお付き合いください。あなたのタイプに合わせて、この本の使い方をアドバイスしたいと思います。
posted by エンジニアライター at 14:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月07日

「半導体」のことが一冊でまるごとわかる



 私の新著『「半導体」のことが一冊でまるごとわかる』が出版されました。
 これは故人である井上先生の遺稿を引き継ぐという、今までとは違う形で書いた書籍です。
 
 原稿を読んでいると、井上先生の日本の半導体業界への思いが伝わってきて、半導体企業に勤める人間の一人として、考えさせられることが多かったです。
 
 この本が井上先生の遺志に従い、日本の半導体業界を盛り上げる一冊になってくれると嬉しく思います。


以下に「まえがき」を示します。
★まえがき★
 「半導体を学ぶ近道は、その歴史を学ぶこと」今の私はこう確信しています。

 私はライターでありますが、半導体業界の一線で、エンジニアとしても働いています。だから、あるべき半導体の入門書はどうあるべきかをよく考えていました。
 しかしながら、それは難しいものでした。なぜならば、現在の半導体業界は技術が非常に高度になり、細分化されているので、全体を見渡すことが困難だからです。

 例えば、私の専門は「モデリング」という技術で、トランジスタ等の電気特性をシミュレーター上で再現するためのパラメータ抽出を行なっています。この技術は半導体業界に必要不可欠なものです。しかし一般の方はおろか、新卒時に技術系採用された理工系大学院卒の同期に対してさえも、その専門性の高い技術を説明することは容易ではありません。
 こんな高度な個別技術を多数内包する半導体技術を、一冊の本で語る方法なんてあるのだろうか、不可能なのだろうと考えていました。

 そんな時に、この本の執筆の話を頂きました。井上伸雄先生がご逝去され、その遺作である本書『「半導体」のことが一冊でまるごとわかる』の原稿を引き継いでほしい、とのことでした。
 折しも、この話を頂いたのは2021年で、半導体の供給不足によって、社会全体に大きな影響が出ている時でした。半導体への注目が高まっていたのです。だから、ぜひ半導体技術の全体像が理解できる本を、と考えました。しかし、それは簡単ではありません。

 そして、最初に井上先生の原稿の目次を頂いた時、正直に言って、苦笑してしまったことを覚えています。というのも、中身が昔の話ばかりで現代の半導体業界で使える知識とは思えなかったからです。
 しかしながら、その原稿を読ませて頂いて、思いが変わりました。なぜなら、その原稿がとても面白かったからです。井上先生は半導体業界の黎明期に詳しく、その当時の人間模様も含めて原稿にされていたのです。

 しかも原稿を読んでいてあることに気づきました。それは、現代の半導体業界は総売上高50兆円の一大産業に成長し、世界中の大勢のエンジニアが製造や開発に携わっています。だから、その技術をわかりやすくコンパクトにまとめることは不可能です。
しかし、その黎明期に立ち戻れば、数十人のエンジニアで製造や開発を行なっていた時代があり、その規模であればコンパクトに文脈を理解することも可能であるということです。

そして、詳細に個々の技術の内容を見ていると、CMOSやマイクロプロセッサや半導体メモリの原理など、半世紀ほどの時を超えても変わらない、根本的な技術があることがわかりました。
  IT業界はドッグイヤーと言われるほど技術の進歩が速い業界です。その核である半導体技術も、枝葉の部分は目まぐるしく変わっていきます。しかし幹となる根本思想は意外に変わっていないことに気づいたのです。
 特に半導体を利用する立場のエンジニア、ビジネス観点で半導体業界を眺めるビジネスマンにとっては、この根本思想を理解するだけで大きく視界が開けるでしょう。

 本書は、半導体技術の基礎や歴史を描いた井上先生の原稿をベースに、現在半導体業界の最前線でエンジニアとして働く私が、現代の半導体技術への足掛かりとなれるように編集し、足りない内容を加えていきました。
 それぞれの基本的な技術の詳細だけではなく、なぜその技術が必要となったか、その文脈を理解できるように配慮しました。

 この本を1冊読んだだけで、現代の半導体技術のすべてを理解するというわけにはいきません。しかしこの本で語る、根本技術の背景や文脈を理解することにより、最新の半導体技術の理解が、はるかに容易になることをお約束します。
 それでは、広大な半導体技術の根本を学んでいきましょう。
 まず「半導体は何の役に立つのか?」「半導体はどんなものがあるのか?」といった基本的な疑問に対し、短くお答えすることから始めていきます。さあ、序章へ進んでください。
蔵本 貴文
posted by エンジニアライター at 01:00| Comment(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする